「こっっの馬鹿がっっ!!」

寺院が揺れそうなほど大声で俺のベッドに横たわる人間を怒鳴りつける。

「わ・・・分かってるからそんなに大声ださな・・・げほっ!」

「分かってる人間がそんな馬鹿な事するかっ!!」

布団から出ている両手を掴んで無理やり布団の中に押し込む。
ついさっきまでずぶ濡れだった人間が腕なんか出してんじゃねぇ!

「・・・ごめんなさい。」

目を潤ませながら背中を丸めて咳をしているは、事もあろうに悟浄と八戒おまけに悟空をつけて使いに出してわずか一時間後に俺の部屋の側にある池に落ちた。すぐに俺の所へ来ればいいのに悟空が泥だらけで俺の部屋に入るのを無駄に見ていた所為か遠慮してずぶ濡れのまま風に当たって洋服を乾かそうとしたらしい。
たまたま俺が一息入れてタバコを吸おうと窓を開けたら、ずぶ濡れのがいて・・・すでにその頃には鼻をすすり咳をしていた。

「ったく・・・面倒かけやがって・・・」

「ご、ごめ・・・なさ・・・ごほっげほっっ!」

必死に謝罪の言葉を紡ごうとするが、それよりも先に咳が出ている。
俺は苛立つ気持ちをため息と同時に吐き出しの顔の前に手をやった。

「あぁもういい。分かった・・・喋るとまた咳が出るから少し黙ってろ。」

「・・・」

小さく首を前後に振って俺の言う事に頷いたの額にかかる髪を指ではらい、そこへ手を当てると体温計を使うまでも無く熱が高い事が分かる。
呼吸は荒く、顔色はいつも以上に赤い。
ったく、本当に面倒なヤツだ。
俺は机の上に散らばっていた書類を適当にひとつにまとめて掴むと、いったん眠っているに一声かけて部屋を出た。





昨日までの暖かな陽気だったらアイツがここまで体調を崩す事も無かったろう。
窓の外を見ればついこの間まで青々としていた葉も色を変え、秋の様相へと変わってきている。
同じように日差しだけならばまだ夏を思わせる太陽だが、肌に感じる空気は確実に冷えて秋の到来を感じさせる。

「何だって俺がこんな目に・・・」

そう思いながらもアイツの世話を他のヤツに頼む事も出来ない。
ちょうどいい、今日の仕事は他のヤツに押し付けて・・・あいつ等が戻ってくるまでの看病に徹してやるか。
その辺を歩いていた坊主に自分の仕事を押し付けて、病人に必要そうな物を適当に小坊主に揃えさせ部屋に戻った。

「おい、・・・」

「あ・・・さんぞ・・・」

「てめぇ何起き上がってやがる!!」

ベッドに寝かしつけていたはずのが何故か俺の机の下から現れたので、思わず怒鳴りつけた。

「ご、ごめ・・・ごほっ!」

「・・・てめぇはそんなにぶっ倒れたいのか!」

「そ、じゃなく・・・て・・・人が・・・」

「あぁ?」

「さんぞ、訪ねて・・・げほっ人が来て・・・あたし、いちゃまずいから・・・」

それ以上は咳に阻まれて上手く喋れないようだ。
・・・そんな状態になりながらも俺(ひと)の心配をしてどうする!!
手に持っていた物を側の机に置いて、力なく床にしゃがみ込んでいるの前へ向かうとその体を抱き上げた。

「ごほっ!!」

「病人は大人しくしていろ・・・」

何か言おうとしたの目を睨み付け、大人しくなった所で先ほどまでが寝ていたベッドへ足を進める。

・・・まさか俺がこんな事をするとは思ってもみなかった。

倒れているのは自己管理が出来ていない証拠で、勝手に風邪を引いたのはの所為なのだから適当に寝かしつけて薬を飲ませて後は放って置けばいい。放って置けばいいのだが・・・何故か今の俺にはそれが出来なかった。
をベッドへ下ろすと、小坊主が用意した夜着をに手渡す。

「もしも汗をかいたらそれを脱いでこれに着替えろ。サルの服よりは通気性がいいはずだからな。」

「うん。」

「水分は出来るだけ取れ、足りなければまた持ってきてやる。」

「・・・ん。」

「・・・どうした。」

俺が水差しを枕元に用意してやっている最中からの表情がおかしい。
水がいっぱい入った水風船のようで、とがった物で触れられればすぐに破裂してしまう。
そんな泣き出す一歩手前のような笑顔だ。
病と言うのはそんなにも人の心を弱めるもの・・・だったのか?

「だって・・・三蔵、優しい。」

「あぁ?」

「だから・・・ごほごほっ・・・うれし・・・げほっ!」

「・・・あぁ分かった分かった。もういいからお前は大人しく寝てろ。」

何を言い出すかと思えば・・・くだらん。

「俺は少し部屋を出るが、今度はきちんと鍵をかけて行ってやる。誰が来ても起きる必要はないし返事をする必要も無い。分かったら喋らず頷け。」

俺の言う事を聞くとは咳をしながらも俺の言うとおり小さく頷いた。

「いいか、肩を出して冷やすんじゃねぇぞ!」

扉を閉める前にそれだけ告げると、俺は次に必要な物を探すべく目的地へ向かった。










「・・・寝たのか?」

桶に水を汲んでそこへ氷とタオルを入れて部屋に戻ると、俺が言ったとおりキチンと肩まで布団に入ったが体を横向きにして眠っていた。
眠っているのならば起こさない方が良かろうと思い、桶を枕元に置いてとりあえずタオルを絞っての額に乗せた。

・・・さんぞぉ〜

額に乗せた瞬間、のまぶたが微かに震えゆっくり開いた。
熱で体がだるい所為かいつもの元気な様子は微塵も見えない。
喋る言葉も何処と無く元気が無い。

「寝てなかったのか。」

俺の問い掛けに先程と同じように小さく頷いて答えるの目は、先程よりは揺らいでいない。
何故かそれは俺の心を落ち着かせた。
チラリと枕元にあった水差しを見ると多少減っている、気付けばいつの間にか俺が渡しておいた夜着に着替えている事からある程度汗をかいて発汗した事が伺える。

「具合はどうだ?」

「少し、咳おさまった。」

「そうか。」

額に乗せたタオルを一度桶の中に戻して、袂がの顔に当たらないよう押さえながらその額に手を乗せる。
冷やしたタオルを乗せていた所為で今は熱く感じないが、やはりまだ熱は高いようだ。

薬を・・・飲ませた方がいいか?

俺が真剣に考えてやっているのに、額に手を当てた隙間から見えるの表情は・・・何故か笑顔。

「・・・何がおかしい。」

「さんぞぉの手、冷たくて・・・気持ちいい。」

「ふん、馬鹿が。」

そんな事言う余裕があるなら大丈夫そうだな。取り敢えず昼頃までこのまま様子を見て、何か食えるようなら食わせて薬を飲ませるか。

「俺は暫く仕事をする。何かあったらすぐ呼べ。」

「・・・ん。」

・・・またその目か。別にお前が邪魔だとかそう言う意味で言ってる訳じゃない!
俺にも仕事があるんだ!!

だが俺のそんな思いに気付かないは、また泣き出しそうな顔で俺をじっと見ている。

「わかった、ここで仕事をしてやる。だからその顔を止めろ。」

「ほ・・・ぇ?」

本人に自覚症状が無いのが一番問題だ。
俺は大げさにため息をつくと道すがら坊主から預かった俺の認印が必要な書類と認印を持っての側の机に置いて、とっとと終わらすべく書類に目を通し始めた。

「・・・煩くても文句言うんじゃねぇぞ。」

「うん!」

「喋るなって言ってんだろうが!!」

「うん!!」

「・・・わざとか?」

赤い顔をしながらもクスクス楽しそうに笑っているを見て気付かれないようホッと胸を撫で下ろす。
俺の心をざわめかせる、あの泣き出す一歩手前の表情。どうも・・・落ち着かん。



それから何度かの額のタオルを交換しながら書類に目を通し、全て判を押し終えた所でちょうど昼の鐘が鳴った。
取り敢えず一息つこうとタバコに手を伸ばしかけて・・・止めた。
昼食を取ろうと席を立つと、法衣の裾が何かに引っかかって動けなかった。
椅子にでも引っ掛けたかと思って振り向くと、じーっと俺を見つめていると目が合った。

・・・本当に手のかかる女だな、てめぇは。

だがそれも時には悪くない・・・と言う思いで横になっているの頭を拳で軽く叩いた。

「何か食えそうな物を持ってくる。その間少しだけ待ってろ。」

「・・・すぐ、戻る?」

「あぁ、すぐ戻る。だから大人しく寝ていろ。」

ついさっき頭を叩いた手で今度は優しくの髪を撫でてやる。
嬉しそうに目を細めるの頭をポンポンッと撫でるとそのまま部屋の扉へ向かった。
扉を閉める前にチラリと部屋の中を覗くと、咳をしながら俺に向かって小さく手を振るが見えた。










「さっ、三蔵様っ!!このような所で何を!?」

「煩い。」

「そのような事、我らが致しますからお止め下さい!!」

「黙れ・・・」

「それではせめてお召し物を・・・」

「煩いって言ってんだろうが!!」

大声で怒鳴りつけてやれば、その声に怯えた坊主どもは一定距離を開けてこっちの様子を伺っている。
ったくハエみたいに俺の周りをウロウロしやがって!!
もう一度俺に近づこうとした坊主の一人をジロリと睨んだ瞬間、火にかけていた鍋が吹き零れそうになって慌てて火を弱める。

・・・まぁやつらが騒ぐのも無理は無いかもしれん。

お師匠が生きている頃ならば、般若湯のつまみを作るのに何度か台所に立ったりしていたからあまり驚かれなかったが、三蔵法師の位をついでから・・・特にこの寺に来てからこんな面倒な事やった事が無いからな。

「・・・俺も熱にやられているのかも知れんな。」

恐らく悟浄と八戒も同じ病にかかっているのだろう。
に関わったヤツは少なくとも必ずこの病にかかるのか?
どうもアイツは人に面倒を看させるのが上手い・・・気がする。

そんな事を考えながら再び煮え立った鍋の火を止めて卵と三つ葉を散らすとふたを閉め、そのまま暫く蒸らす。
その間に食事に必要な皿を二人分用意し、最後に土鍋をお盆に乗せ・・・一騒動起きた台所を後にした。





「・・・今度も狸寝入りか。」

「ばれた?」

「二度目だからな。」

病人のクセにそんな事をやる元気はあるんだな。
やれやれとため息をつきながら俺は無言で土鍋を側の机に置きふたを開けた。

「わっ何それさんぞぉ!!」

「雑炊だ、見て分からんか。」

「・・・それは分かるけど、誰が作ったの?」

不思議そうな顔でお椀についだ雑炊を眺めるを見て、俺は小声で教えてやった。

「え?」

「・・・悪いか。」

「これ三蔵が作ったのぉ!?」

「デカイ声出してんじゃねぇ!!!」

ついいつものクセでの頭を思い切りハリセンで叩いてしまった。
病人相手に・・・少しやりすぎたか?
だがそんな俺の心配をよそには叩かれた頭を片手で抑えながら、雑炊の入ったお椀を嬉しそうに眺めていた。

「凄い・・・美味しそう。」

「味は保障しないぞ。」

他の坊主達より飯を作るのが上手いというのは分かっているが、普段お前が食ってるのは八戒の飯だろう。
アイツほど器用な真似は・・・俺には出来ないからな。

「美味しいに決まってるよ!」

レンゲを握り締めて力説するお前の自信は一体何処から来るんだ?

「誰かの為に作ったご飯が不味いなんて事あるわけ無いもん。だから絶対にこれは美味しいの!」

「・・・食ってもいないのにそんな事言っていいのか?」

「うん!」

・・・この、馬鹿が。

「冷める前に食え。」

「はーい!頂きます。」

両手を合わせて冷ましながら一口目を口に運ぶ様子を何故かじっと見つめてしまう。
不味いはずは無いと思っているのに、お前の口から聞かない限り不安は消えないのか。

「美味しいよ、三蔵!!」

こぼれる様に笑顔でそう言うお前の顔を見て・・・ホッと安心した自分が不思議だった。
お前と一緒にいると俺はどんどん自分が変わっていく気がする、お師匠が望む方向へ・・・変わっている気がする。





キチンと食べ終わったに悟空すら不味いと言った風邪に効く漢方薬を半ば無理矢理飲ませた。
飲み終わった後、あまりの気持ち悪さに寝込んだがうわごとの様に何か呟いた。

さ、三蔵の鬼ぃ〜あれ、不味すぎぃー

「お前が言ったろ?誰かの為に作った物に不味いものなんて無い・・・と。」

言ったけどぉーうぅぅ〜

「お前が良くなる様俺が作ってやったんだ。不味いなんて事・・・ねぇだろう?」

いつものようにニヤリと笑って寝込んでいるの目をじっと見つめてやると、悔しそうに唇を噛み締めながら壁際を向いてしまった。

「もう少ししたらあいつ等も戻る。それまで大人しく寝ていろ。」

ポンッと肩を叩くとベッドの脇に腰掛け、ホンの僅かに窓を開けるとそこへ灰皿を置いた。
に煙がいかないよう気をつけながら今日、初めてのタバコに火をつけた。



いつもと同じタバコのはずが・・・この時はやけに甘く感じたのは、俺の気のせいなのだろうか。





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NO12:忍サン『三蔵にお料理を作ってもらう』NO15:文月鈴サン『風邪を引いたヒロインを看病する三蔵様』
再び二つをくっつけて願いをかなえようとするずるいお星様登場。
ほら、一応看病はしてるし雑炊作ってるし(笑)
冷たい料理って事だったんですが、今や季節は秋になり大分空気が冷たくなってきているので私の趣味で温かいものに変更してしまいました(笑)ゴメンね(苦笑)
今回の三蔵様は本当に至れり尽くせりです。
でも帰ってきてヒロインが風邪を引いていると・・・八戒と悟浄(特に八戒)に言及されそうですね(苦笑)